納税通信 2008年4月7日号
特殊支配同族会社の税金(上)~間違えやすい5大ポイント
税理士 鈴木圭介
平成18年度の税制改正によって特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入(以下「当制度」という)の制度が創設された。当制度は、支配株主と代表取締役が同一人物といった法人を対象として創設された。そうした法人では、支配役員に対して支給した役員報酬について、法人所得段階で損金に算入され、個人所得段階でさらに給与所得として給与所得控除が摘要される、いわゆる「経費の二重控除」の状態となっていると指摘されてきた。
本稿では、当制度の概要を踏まえつつ、実務上間違え易いポイントについて検討してみる。
当制度は、内国法人である特殊支配同族会社がその特殊支配同族会社の役員に対して支給する給与の額(※1)のうち、その給与の額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額については、その特殊支配同族会社の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない(法法35条(1))という制度である。
ただし、基準所得金額(※2)が政令で定める金額以下である事業年度その他政令で定める事業年度については、適用除外となる(法法35条(2))。
なお、当制度が適用されるか否かは、図のようなフローチャートを作成し、判定するのが望ましく、特殊支配同族会社に該当すれば損金不算入額がなくても別表の添付が必要である(法令72条の2(13))。
本制度における特殊支配同族会社の要件及び適用除外要件について簡単に整理してみる。
特殊支配同族会社とは、同族会社のうち以下の要件を満たす法人である。(法法35条(1))特殊支配同族会社に該当するかどうかの判定は、その法人のその事業年度終了の時の現況による(法法35条(3))。なお、医療法人や税理士法人等は、同族会社に該当しないと考えられているため、特殊支配同族会社に該当しない。
特殊支配同族会社の基準所得金額(※2)が次に掲げる金額以下の場合には、適用除外となる(法法35条(2)、法令72条の2(8))。
なお、適用除外の判定はあくまで過去の事業年度を参考にした基準所得金額で、当期において損金不算入額を加算するか否かを判定する。したがって、当期の所得あるいは役員報酬にかかわらず、基準所得金額により適用除外とならなければ特殊支配同族会社に該当する限り、当期の損金不算入額は算出される。
(※1)法人税法35条の役員給与の損金不算入の規定により損金の額に算入されないこととなった金額を除く。
(※2)基準所得金額とは、その事業年度開始の日前三年以内に開始した各事業年度(以下「基準期間」という。)のイの金額の合計額からロ及びハの合計額を控除した金額を、基準期間内事業年度の月数で除し、これに12を乗じて計算した金額である。(法令72条の2(5))
基準所得金額=(イ-ロ-ハ)×12÷基準期間内事業年度の月数
イ 調整所得金額
所得の金額+業務主宰役員給与額(損金の額に算入されなかった金額を除く)+青色欠損金の当期控除額
ロ 調整欠損金額
欠損金額-業務主宰役員給与額(損金の額に算入されなかった金額を除く)
ハ 過年度欠損金額の調整控除額
(イ)、(ロ)の金額をこれらの金額が生じた事業年度開始の日後7年以内に開始した各事業年度の最も古い事業年度から順次控除するものとした場合における基準期間前事業年度において生じ、かつ、基準期間内事業年度の調整所得金額から控除される金額
(イ)非特殊支配同族会社最後事業年度等後の事業年度において生じた調整欠損金額を発生事業年度の終了の日の翌日前三年以内に開始した各事業年度のうち最も古い事業年度から順次控除するものとした場合に控除しきれなかった金額
(ロ)非特殊支配同族会社最後事業年度等以前の事業年度において生じた欠損金額
なお、注意点が二つある。ひとつは、平成13年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金は、控除期間を「5年」として計算しなければならない。二つ目は、平成15年4月1日前に開始した事業年度は日特殊支配同族会社として計算する。
(※3)基準業務主宰役員給与とは、以下の算式で計算される。
当制度でいう業務主宰役員とは、会社の経営に最も中心的に係っている役員1人をいう。
この場合、事業計画の策定、多額の融資契約の実行、人事権の行使等に際しての意思決定の状況や役員報酬の多寡等を総合的に勘案して判定する。(法基通9-2-53)
そもそも会社の経営とは、販売、仕入、製造計画を立て、必要な資金を調達して設備投資をし、給与や任免等の人事を決定することである。
業務主宰役員とは、これら経営活動を最も中心的に行い、かつ、責任を有する役員と考えられる。本制度においては単に代表取締役の肩書きをもって、あるいは役員報酬の金額をもって業務主宰役員とはならない。
当制度の適用を受ける同族会社のおいては、肩書き変更や給与の付替え(業務主宰役員から他の役員)が行われる可能性があるが、あくまで「だれが業務主宰役員か?」の実質的な判断を行っていかなければならない。
つづく