融資を引き出すための金融機関との上手な付合い方②「実践編」月刊『税理』連載コラム 2005年12月号

第12回 会計情報は、経営意思決定のためにある!

 質問 

 いままでの連載で税理士事務所が顧客の要求を満たすために必要な金融機関に対する基礎知識、あるいはそれに関係する諸施策を知ることができました。実際に金融機関と上手に付合うために、甲賀先生ご自身がどのような事務所運営をされているかをご紹介いただけますか?

 回答 

 私は、大学院卒業後、外資系金融機関で7年間勤務し、税理士試験に合格したため、税理士事務所への勤務経験を経ずに開業いたしました。当然ながら、実務を知らない者として先輩税理士の方々からアドバイスを頂きながら、少しずつ業務範囲を拡大していきました。現在は、職員10名の事務所として業務を行っています。

 開業当時の素朴な疑問として、税理士資格で開業している事務所が、お客様から「会計事務所」と呼ばれたり、あるいは、電話口で「○○会計です」と返答したりすることに対して、とても違和感がありました。

 決算修正仕訳などを行う申告月は、13ヶ月目といわれます。よって、月次でも多少は税務に関係する業務もありますが、税務関係は13ヶ月目が中心となるわけです。割合としては、13分の1ですね。さらに法人の黒字割合が約30%なので、実質的に1/13×30%=2.3%が、税理士事務所が税務業務を行っている割合です。よって、その他は、会計業務ということになるでしょうか?だから、「税理士事務所」ではなく、「会計事務所」なんだと、ちょっと強引かもしれませんが、自分に言い聞かせています。

 このような理由もあり、私の事務所では、「税務会計」はもとより「管理会計」業務のウエイトを重視しております。この「管理会計」という言葉は、会計学を専攻した方はお分かりでしょうが、学問的には理解できても、なかなか中小・零細企業の経営者にお伝えすることが難しいのです。そこで、私の事務所では、「管理会計」を分かりやすく定義しました。「会計情報は、経営意思決定のためにある。それを行うのが管理会計です。」

 管理会計を行うための前提として、会計情報は常にタイムリーなものでなければならず、また、自社で管理ができることが要求されます。よって、「記帳代行」では、管理会計は行えませんので、自計化が必須となります。その環境が整備された状態で、月次決算体制の確立が要求されます。当然ながら現金主義ではなく、発生主義でなくてはいけません。やっと、経営意思決定のための会計情報が出来上がったことで、過去、現在、未来(予算)の比較が可能となるわけです。

 最近の傾向として、お客様からの寄せられる質問事項で多いのは、資金の相談です。これは、お客様と我々税理士事務所との関係だけでは、クロージングできない項目であり、絶対的に金融機関等の協力が必要となります。私の事務所では以前から、その必要性を感じ、企業、金融機関等、税理士事務所が三位一体となったビジネスモデルを実践すべく活動を行ってまいりました。

 税務署は結果、すなわち過去の部分でしか判断しませんが、金融機関は、企業の過去・現在・未来に対して総合的な判断を下します。特に経営者の資質に対する評価は、想像以上のものがあります。よって、顧問先の企業に関して、税理士事務所側で把握している会計情報だけではなく、金融機関から見た客観的な情報を捉えているかどうかも重要になってきます。

 したがって、税理士事務所は、税の専門集団であると同時に、金融の専門集団であるべきだと感じています。金融機関等との橋渡しも、当然、本来業務としておこなうべきでないでしょうか。
ところで、企業、金融機関等、税理士事務所が三位一体となったビジネスモデルで、金融機関「等」としている理由ですが、商工会議所や商工会は“マル経”融資制度の窓口であり、各種の信用保証機関や地方自治体の経済部なども事業者向けの制度資金に深く関わっているため、これらの機関を含めて「金融機関等」としています。

 このビジネスモデルを展開していく上では、まず初めに我々税理士事務所と金融機関等の間で連携を強めておくことが重要です。その信頼関係をあらかじめ構築しておかなければ、不測の事態が発生したときに、お客様の企業に対してフォローアップできなくなるのは目に見えています。

 私は、開業後すぐに、「管理会計」と三位一体モデルを事務所のスローガンとして、地域金融機関を中心に、可能な限り営業店を訪問しました。顧問先の数も少ないこともありましたが、1日に3店舗は通っていたのではないでしょうか。そのうちに、各金融機関から行員向けの研修以来などが舞い込んできました。指定されるテーマは、「粉飾決算の見分け方」が多かったですね。何回か研修を重ねていると、金融機関の方は、結果たる決算書等は、よく見ているものの、その作成過程、いわゆる簿記一巡の知識が乏しいことが分かりました。金融機関の方から、税理士事務所に決算内容について問い合わせをする際に、事務所の職員が自信なさそうに回答する、という話をよく聞きます。しかし、顧問先企業に対して経営助言活動を行っているのであれば、自信をもって対応できると確信が持てたのも事実です。

 現在は、地元信用金庫の審査部付けリレーションシップバンキング対応の顧問税理士にも就任し、また、本コラムの執筆などで、金融機関等に強い税理士事務所として、胸を張れるようになったと自負しております。

金融機関等から信頼を勝ち取るためには、真正な決算書の作成が基本となります。その積み重ねが、関与先拡大の決め手となるのは、明らかですね。2年間のご愛読、ありがとうございました。