質問
金融機関が中小・零細企業の「格付け」をする際に、提出している決算書から点数をつけていることは知っていましたが、非財務的項目についても評価され、点数化されているという事実は知りませんでした。どういう評価がなされているのでしょうか。
回答
金融機関の中小・零細企業に対する「格付け」は、財務分析などの定量的な評価のほか、決算書には表現されない非財務的項目についても評価を行います。これらの項目を定性的要因といいます。「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」は、中小・零細企業の資産査定のガイドラインでありますが、「金融検査マニュアル(本編)」で補えない中小・零細企業の特殊性、すなわち、販売力、技術力、経営者の資質など企業の将来返済力を表す項目や企業オーナーの資産、収益力や、企業の含み益などの潜在返済力を表す項目を定性的要因として、斟酌する事が可能となったのです。つまり、「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」の27事例は、定性的要因による「格付け」アップのための事例集といえるでしょう。
ところで、中小・零細企業に対する「格付け」では、財務的項目、非財務的項目、及び保全などの取引状況に評点が付けられます。財務的項目たる定量的要因のウエイトを100とするならば、非財務的項目たる定性的要因は、25から60までと各金融機関によって、バラツキがあります。「格付け」は、各金融機関が信用リスク管理のために独自に行っているものと考えると、ばらつきがあることは当然といえるでしょう。定性的要因のウエイトを重んじるということは、それだけ企業実態を把握しようという金融機関の方向性を示していると考えられます。
以下に、定性的評価項目にスポットを当てて、その具体例をみていきます。
ここでいう代表者等には、例えば、代表者の家族、親戚、代表者やその家族等が経営する関係企業など当該企業の経営や代表者と密接な関係にある者などが含まれます。例えば、企業が赤字で返済能力がないと認められる場合であっても、代表者等への報酬や家賃等の支払いから赤字となり、金融機関への返済資金を代表者等から調達している場合があるため、赤字の要因返済状況、返済原資の状況を確認することが必要とされています。
代表者等への収入状況については、個人については個人収支や資金繰り等、関係企業については企業収支や資金繰り等により確認するとしています。また、代表者等の預金や有価証券等の流動資産及び不動産(処分可能見込額)等の固定資産については、返済能力として加味することも可能です。ただし、代表者等に係る借入金がある場合にはその額を控除しなければいけません。
また、「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」改訂版では、代表者等からの借入金は、当該企業の自己資本相当額とみなす場合について、代表者が借入金の返済を当面要求しない点の確認については、不要となりました。
企業の技術力、販売力、経営者の資質やこれを踏まえた成長性については、企業の成長発展を勘案する上で重要な要素であり、中小・零細企業等にも、技術力等に十分な潜在能力、競争力を有している先が多いと考えられるため、検査においてもこうした点について着目する必要があるとしています。
(1)企業の技術力、販売力等
企業や従業員が有する特許権、実用新案権、商標権、著作権等の知的財産権を背景とした新規受注契約の状況や見込み、そして新商品・サービスの開発や販売状況を踏まえた今後の事業計画や、取扱商品・サービスの業界内での評判等を示すマスコミ記事、また今後の市場規模や業界内シェアの拡大動向、さらに販売先や仕入れ先の状況や評価、同業者との比較に基づく販売条件や仕入条件の優位性などが、判断材料になるとされています。
(2)経営者の資質
過去の約定返済履歴等の取引実績、経営者の経営改善に対する取組み姿勢、財務諸表など計算書類の質の向上への取組み状況、ISO等の資格取得状況、人材育成への取組み姿勢、後継者の存在等が、改訂版において、定性的評価の具体的項目として明記されました。
これらの企業の技術力、販売力、経営者の資質やこれを踏まえた成長性を評価するに当たっては、金融機関の企業訪問、経営指導等実施状況や企業・事業再生実績等を検証し、それらが良好であると認められる場合には、原則として金融機関が企業訪問や経営指導等を通じて収集した情報に基づく当該金融機関の評価を尊重するとしています。さらに、中小企業経営革新支援法の「経営革新計画」など、法律等に基づき技術力や販売力を勘案して承認された計画等や中小企業診断士等の評価なども勘案することが明らかにされました。
中小・零細企業等の場合、企業の規模、人員等を勘案すると、大企業の場合と同様な大部で精緻な経営改善計画等を策定できない場合でも、例えば今後の資産売却予定、役員報酬や諸経費の削減予定、新商品等の開発計画や収支改善計画等のほか、企業の実態に即して金融機関が作成・分析した資料を踏まえて判断を行うことが必要とされています。
貸出条件及びその履行状況については、「格付け」を判断する上で重要な要素であり、仮に、条件変更等が行われている場合には、その条件変更等に至った要因について確認する必要があるとされています。
例えば、当該貸出金が設備資金として融資されたものの、収益の減少による返済能力の低下から約定返済ができないため元本の期日延長が行われている場合や、運転資金等が他の貸出金の元本や利息の返済額に流用され、結果として元本又は利息の延滞が回避されている場合などにおいては、貸出条件及びその履行状況に問題があると考えられ、これらを踏まえ判断を行う必要があるとされています。
貸出条件緩和債権とは、銀行法において「債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の支払猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取決めを行った貸出金」と規定されています。債務者の経営再建又は支援を図る目的の有無については、単に融資形態のみをもって判断するのではなく、債務者の状況や資金の性格等を総合的に勘案して判断する必要があるとしています。
例えば、書換えが継続している手形貸付けであっても、いわゆる正常運転資金については、そもそも債務者の支援を目的とした期限の延長ではないことから、貸出条件緩和債権には該当しないことに留意するとしています。
※この他に、非財務的評価には、経営者の人物評価がなされ、人格、識見、健康などがその対象となってきます。社内外での素行にも注意を払わないとイケないですね。