融資を引き出すための金融機関との上手な付合い方① 月刊『税理』連載コラム 2004年9月号

第9回 「財務諸表など計算書類の質の向上に向けた取組み」について(4)

 質問 

 先日、決算終了後、融資を受けている金融機関から、決算書等の提出を求められました。毎年のように貸借対照表、損益計算書及び利益処分計算書を提出したところ、法人税の申告書や、勘定科目及び減価償却の内訳明細書の提出も要求されました。これからは、これらの書類の提出が基本となるのでしょうか?あるいは、当社に関して注意深く見る必要が生じてきたので、提出を求められたのでしょうか?

 回答 

 結論から言いますと、今まで提出していなかったことが、特別であったと考えるべきです。たぶん、勘定科目の内訳や減価償却の明細については、聞き取りにより、それを補っていたと考えられます。また、勘定科目の内訳を提出している場合でも、ある勘定科目の「その他」の項目に大きな金額が載っている時には、その内訳をたずねられたことは、ないでしょうか?我々が顧問させていただいてる企業については、たとえ1円であっても、「その他」の項目を利用しないことにしています。

 また、減価償却は、支出を伴わない費用ということで、潜在的返済力に直接反映するため、それがキャッシュフローとして表現されることになります。特に減価償却不足額があるとキャッシュフローに直接響いてくるため、融資をすでに実行している場合には、減価償却の明細書を要求してくるのは、当然のことと思われます。

 今回は、これらのうち減価償却に関する事項について、金融機関サイドから見た考え方に焦点をあてていきたいと思います。平成16年2月に発表された「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」改訂版の事例10に、減価償却に関する記述がありますので、こちらを見ていきましょう。

概況・業況・自己査定

 債務者は、地元温泉地の中規模旅館で当行メイン先(シェア80%、与信額平成13年9月決算期400百万円)である。5年前に宿泊客の落ち込みへの挽回策として、別館をリニューアルしたものの、売上は当初計画比80%程度に止まり、伸び悩んでいる。期間損益は多額な減価償却負担や金利負担から赤字を続け、債務超過に陥っている。

 当行は、運転資金のほか、当該別館改築資金(250百万円、20年返済)に応需している。なお、当該改築資金については、現状正常に返済が行われている。代表者は、今後は新たな旅行代理店の開発及びタイアップにより、宿泊客数の増加を図るとともに、人件費等の経費削減にも取組み収益の改善に努めたいとしている。当行は、財務内容や収益力は芳しくないものの、現行、正常に返済していることや代表者の経営改善に向けた意欲を評価して正常先としている。

検証ポイント:業種の特性について

(1)中小・零細企業等の債務者区分の判断に当たっては、その財務状況のみならず、代表者等の収入状況や資産内容等を総合的に勘案し、当該企業の経営実態を踏まえて判断するものとされているが、その際、業種の特性を踏まえた検討も合わせて行う必要がある。

 一般的に、旅館業については、多額の設備資金を必要とし、これら投資資金の回収に長期間を要するという特性を有している。また、多様化する顧客ニーズへの対応のため、比較的短期間の内に設備更新のための再投資(修繕費用等)も必要とされる。

 旅館業の債務者区分の判断に当たっては、こうした業種の特性による設備投資に伴う減価償却負担や金利負担の状況及び投資計画を踏まえた収益性等について検討をする必要がある。

(2)本事例の場合、返済は正常に行われているが、売上低迷、毎期赤字、債務超過という面のみを捉えれば、要注意先以下に相当する可能性が高いと考えられる。

 一方、通常、減価償却費が定率法で算定される場合、投資後初期の段階では減価償却費負担が大きくなることから、自己資本額が小さい債務者の場合、赤字、債務超過に陥りやすくなるが、仮に、減価償却前利益が今後一定の水準で推移するとした場合、時間の経過とともに、減価償却費の減少から、減価償却後利益は黒字へと好転し、債務超過額も徐々に解消していくこととなる。また、借入金の返済が進めば、通常、金利負担も減少していくことが考えられる。

 したがって、旅館業のように新規設備投資や改築費用が多い業種については、現時点での表面的な収支、財務状況のみならず、赤字の要因、新規投資計画に沿った収益・返済原資が確保されているのか否か、今後の売上の改善見込みなどを検討する必要がある。

(3)本事例の場合においては、こうした検討を踏まえ、債務者自身で返済原資が確保されているのか否か(代表者等の支援があるのか否か)、当初計画比80%程度の売上や減価償却費、金利負担の減少等をベースにした収益水準で今後の返済が可能か否か、あるいは、今後の収益増強策でどの程度返済原資の積み上げが図れるのかなどについて検討し、今後も当初約定通りの返済が可能であるならば正常先に相当する可能性が高いと考えられる。

着眼点

 以上のように、新規設備投資や改築費用が多い業種については、初期の段階では減価償却費負担が多くなるため、画一的な判断で「要注意先」となる可能性が高いですが、今後の収益返済原資の確保の度合など、総合的に見て「正常先」となる場合もあると思われます。

減価償却費を毎期計画的に計上するためには、年間の減価償却額を12等分し、各月に配分します。毎月、その額を上回るような利益達成目標を掲げる必要があります。