融資を引き出すための金融機関との上手な付合い方① 月刊『税理』連載コラム 2004年7月号

第7回 「財務諸表など計算書類の質の向上に向けた取組み」について(2)

 質問 

 前号で「財務諸表など計算書類の質の向上」については、財務体質改善といった観点から検証すると、「貸借対照表」の重視がポイントであることが理解できました。具体的にどこから改善していけば良いのでしょうか。

 回答 

 各金融機関が財務諸表の中で、最も注目しているのが「貸借対照表」であることは、自己資本比率などの企業の安全性を表す指標が、その内容から導き出されることからも確認できました。

 その「貸借対照表」の中に、「役員借入金」あるいは「役員貸付金」といった科目がでてくることがあります。「役員借入金」とは、法人の役員(一般的には法人のオーナーである社長)がその法人に対して資金を注入した時に、その金額を表示する科目です。また、これとは反対に「役員貸付金」とは、法人の役員がその法人の資金を持ち出した時に、その金額を表示する科目です。

 中小・零細企業等の場合、個人が事業を立ち上げ、その後、一定の成果が得られると確信した段階で、事業主が自ら出資し、法人格を取得して企業化するのが一般的です。したがって、これらの取引があるのが通常であり、実態であるのはお解りいただけると思います。

 「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」では、検証のポイントに関する運用例が紹介されていますが、最初に挙げられているのが「企業の実態的な財務内容について」の運用例です。本連載第4回(4月号)でも紹介したとおり、貸借対照表の負債の部に、「役員借入金」勘定がある場合、役員が返済の要求をしないときは、自己資本相当額として取り扱うことは可能であるとしています。さらに、平成16年2月の上記マニュアルの改訂版によって、代表者等からの借入金等の回収意思の確認は、不要となりました。

 また、「役員貸付金」勘定がある場合、回収可能性を検討する必要があります。また、回収不能額がある場合には、自己資本額相当額から減額しなければならないと考えられています。ただし、代表者の個人支出や資金繰りの状況などの確認が必要となります。

 「法人」とは、法律によって人格を与えられた会社などをいいますが、「法人」を「愛人」と読み替えると、上記の「役員借入金」及び「役員貸付金」の理解を深めることができます。「役員借入金」は、社長が「法人」に資金をつぎ込んでいる状態です。すなわち「法人」=「愛人」には、どんどん私財を投入しますが、いざ資金が必要になっても、それを返してくれとは、なかなか言えないものです。これは、「愛人」(法人)を愛しているからこそできるわけで、結果的に「役員借入金」の金額が、減少することはほとんどありません。よって、実質的には、法人に維持拘束される資本金と同様に取り扱われることになります。

 また、「役員貸付金」の場合は、社長が「愛人」(法人)の資金を引き出している状態です。すなわち、「愛人」が社長に対して、資金を渡している訳で、社長はいわゆる『ヒモ』の状態です。「愛人」と社長の関係は、密接なのは間違いありませんが、社長は貢いでもらっている以上、発言力も弱いですし、また「愛人」の生活状況(財政状態)も苦しくなる一方です。また、「役員貸付金」という勘定科目では、対外的にカッコ悪いからと「仮払金」勘定としていても、勘定科目が異なるだけで、内容は変わりません。いずれにしても、『ヒモ』の状態はお互いにジリ貧になるのは明らかですし、いったん貰ったものを返すのはとても辛いものなので、早めに手を打っておかないと、「心中」(倒産)なんてことになりかねません。

 結論として、「役員借入金」が貸借対照表上に存在する場合は、自己資本と同様な取扱いがなされるため、歓迎されるものと考えられます。また、中小・零細企業等においては、株主と当該役員が同一のことが多く、「役員借入金」が役員である株主からのものとすると、「資本金」と同様に企業に投資している状態と考えられます。その性質を応用して、当該役員たる株主が「役員借入金」の返済を要求しない場合には、「資本金」として組み入れる方法も自己資本比率アップの手段として考えられると思います。これは、一般的に「借入金の資本組入れ」と呼ばれています。

 一方、「役員貸付金」あるいは、役員に対する「仮払金」が貸借対照表上に存在する場合は、企業の資金が流失している事実が明白なため、その内容を吟味し、その妥当性を追及せざるを得ない訳です。金融機関は、この勘定を「換金性のない資産」と評価するため、企業が融資を申し込む時に金融機関側の懸案事項となることもあります。

 さらに、「役員貸付金」は、ややもすれば返済が滞留しがちです。この間、税務上認定利息が発生する為、返済者である役員は、増加していく利息分を含めて支払い続け、法人は利息に対して法人税を負担することになります。

ここだけは要チェック

 このまま勇退時までこの状況が続くと、役員は退職金で清算せざるをえません。万一死亡事故が発生すれば、その死亡退職金で「役員貸付金」を精算する事になり、遺族へ弔慰金を支払えなくなることが予想されますので注意を払う必要があります。