質問
先日、某銀行が一時国有化されるという記事を読みました。直近の3月決算においては自己資本比率が4.54%で、中間決算においては、マイナス3.72%、すなわち債務超過に陥ったための措置と理解しています。中小企業をとりまく金融情勢がどのように変化し、このような対応になったのかを教えてください。
回答
平成13年6月の閣議決定以来、小泉内閣の経済社会の活性化を目指した構造改革と金融機関の不良債権問題解決が叫ばれております。こうした中、金融庁は平成14年の10月30日に主要行の不良債権処理を通じた経済再生を図るための「金融再生プログラム」を取りまとめました。また、翌月29日には、「作業工程表」を公表し、上記プログラムで取り上げた措置の具体的な方策や実施時期を定めることになりました。
「金融再生プログラム」は、平成16年度までに主要行の不良債権比率を半分程度に低下させるとともに、資産査定の厳格化、自己資本の充実及びガバナンスの強化などについて、新しい金融行政の枠組みを示したものです。
また、「金融再生プログラム」では、我々会計事務所の顧問先が比較的多く利用している地方銀行、第二地方銀行、信用金庫及び信用組合などの中小・地域金融機関の不良債権処理について、主要行とは異なる特性を有する「リレーションシップバンキング」のあり方をいろいろな角度から検討することになりました。平成15年3月27日に金融審議会が『リレーションシップバンキングの強化に向けて』と題する見解がまとめられています。
さらには、中小企業の実態を反映した的確な検査などを確保するため、既に公表されている「金融検査マニュアル別冊(中小企業編)」(平成14年6月)の趣旨や内容の周知徹底を借り手企業に対して促しています。これについては、次回のテーマとして取り上げたいと思っております。
「リレーションシップバンキング」とは、長期継続する関係の中から、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て、融資を実行するビジネスモデルを言います。一般に、資金の貸し手(金融機関)は借り手(企業)の信用リスクに関する情報を当初十分に把握していないことが多く(これを情報の非対称性と呼んでいる)、貸出にあたっては継続的なモニタリング等のコスト(エージェンシーコスト)を要するのが通常です。しかしながら、リレーションシップバンキングにおいては、金融機関は長期的に継続する関係に基づき、企業の経営能力や事業の成長性など定量化が困難な信用情報を蓄積することが可能であり、さらに、当該企業は親密な信頼関係を有する金融機関に対しては一般に開示したくない情報についても提供しやすいと考えられます。よって、借り手企業の信用情報がより多く得られ、エージェンシーコストの軽減が可能となるものとされています。
翌日の3月28日発表された「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」では、平成15から16年度までの2年間の「集中改善期間」に、その機能強化を確実に図ることが述べられています。具体的には金融機関が取り組むべき、(1)中小企業金融の再生に向けた取組み、(2)各金融機関の健全性の確保、収益性の向上等に向けた取組みが主な内容です。本プログラムに基づいて、各金融機関は平成15年8月末までに「リレーションシップバンキングの機能強化計画」を金融庁に提出しています。また、これについて半期毎にフォローアップを行うことになっています。
(1)中小企業金融再生に向けた取り組み
(2)健全性確保、収益性向上等に向けた取り組み
このような環境下から、中小・地域金融機関はリレーションシップから得られる情報を有効活用しつつ、収益の向上、健全性の確保、経営基盤の強化に向けて自助努力を急速に推し進めることになり、その際には借り手企業による適正な対価、すなわち信用リスクに見合った金利や手数料の負担を要求することは、間違いのないところと思われます。
すでに主要行で行われている「企業格付け連動型金利」の導入も、地域金融機関の格付けの精度向上に伴い、近い将来に実現されることを予想しつつ、顧問先の財務体質改善に今から積極的に取り組まれることをお勧めいたします。