月刊『税理』特集II 2007年12月号
中小企業の財務体質改善と税理士のアプローチ
税理士 甲賀伸彦
金融機関の自己資本比率が、海外業務を行う場合は8%以上、国内業務だけを行う場合は4%以上とし、その基準を下回れば個別措置や業務の停止命令が下される。
金融検査の基本的考え方、検査に関しての具体的着眼点を整理したマニュアルを整備し公表することにより、国際的信頼や預金者等の理解を得ることで、金融機関の自己責任に基づく経営を促し、金融機関への信頼が確立できることを目標とするもの。
平成12年5月 「金融検査マニュアル」1次改訂
平成13年4月 「金融検査マニュアル」2次改訂
平成13年7月 「金融検査マニュアル」3次改訂
中小企業の実態を反映して的確な検査を確保するために公表。検証ポイントに関する16の運用事例が紹介される。
主要行の不良債権問題解決を通じて企業再生「安定」がキーワード
平成14年11月29日 「金融再生プログラム」-「作業工程表」
平成15年3月27日 「リレーションシップバンキングの強化に向けて」
平成15年3月28日 「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」(15年度、16年度)
「財務諸表など計算書類の質の向上への取組み状況」などが明文化。検証のポイント改訂に併せて、事例を追加・改正し、事例を16から27に拡充した。
主要行が、不良債権を17年3月期までに半減させる目標を、16年9月期で事実上達成。新たな金融行政への転換。「活力」がキーワード。
平成17年3月28日 「金融改革プログラム」-「作業工程表」
平成17年3月29日 「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム」(17年度、18年度)
平成19年7月12日 「地域密着型金融(リレーションシップバンキング)(平成15年度~18年度 第2次アクションプログラム終了時まで)の進捗状況について」を公表
金融庁は、19年9月3日に、19年5月に実施した「中小企業金融モニタリング」の取りまとめ結果の公表を行った。
これは、17年3月末に公表された「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(第2次アクションプログラム)(平成17年度~18年度)」において示された「中小企業金融モニタリング」のさらなる活用を図る一環として、その公表が盛り込まれたことによるものである。
「中小企業金融モニタリング」とは、中小企業金融の円滑化に向けた取組みの一環として、商工会議所等、日本公認会計士協会地域会及び税理士会の協力を得て、中小企業から見た金融機関に関する具体的な問題点について把握するために、四半期毎に実施しているものです。今回は250団体、411名からヒアリングを行っている。
今回実施した「中小企業金融モニタリング」では、主に以下のような質問項目で調査を行った。
中小企業金融に関する最近の3ヶ月間の中小企業に対する貸出態度の動向を見ると、「積極的である」が31.8%、「やや積極的である」が38.0%と約7割の金融機関の取組みが評価されている。平成17年5月に実施された「中小企業金融モニタリング」が上記の2項目を合わせても約3割強だったので、この2年間で取組が浸透してきているものと感じられる。また、地域別に見ると、ばらつきはみられるものの、「やや消極的である」が4.5%、「消極的である」1.6%と、消極的な姿勢な意見はおおむね1割を下回っている。また「どちらとも言えない」とする意見は24.1%となっている。
金融機関別で見ると、政府系金融機関は、創設の意義に相俟って、ほぼ全体の割合に等しい意見となっている。主要行に関しては、中小企業をターゲットとした融資展開が繰り広げられているため、以前と比べると積極的であるという意見が見受けられる。最も地域密着型金融と関わりがある地方銀行及び信用金庫・組合については、比較的積極的な姿勢が見受けられる。「地域密着型金融(リレーションシップ・バンキング)」が実践という形で、少しずつだが着実に浸透してきていることが感じられる。
中小企業からみた地域における中小企業金融の実情等として多数の意見が寄せられているが、これをみることで、中小企業が金融機関に対してどのように接していけばよいのかというヒントになりそうである。
融資姿勢に関連して寄せられた意見だが、地方公共団体における制度融資等を活用したり、新規融資の担当者を配置するなどして、新規融資に積極的に取り組んでいるという意見が多く寄せられている。実際に都銀などの主要行が5千万円単位で中小企業に融資するモデルも多数見受けられた。また、税理士会と提携したビジネス・ローン等の金融商品を拡充したり、他の金融機関の借入を一本化する提案など、借換えにも積極的に応じる姿勢もみられてきた。
さらには、業況が悪化した企業経営者とのコミュニケーションを図り、企業の実態把握に努め、定性的要因を考慮した融資が行われようになっている。金融機関が長期的な取引関係により得られた情報を活用し、対面交渉を含む質の高いコミュニケーションを通じて融資先企業の経営状態等を的確に把握し、これにより中小企業等への金融仲介機能を強化するとする、地域密着型金融の本質を踏まえた融資姿勢として評価できる。
しかしながら、信用保証協会の保証付融資を利用しないと相談に応じない、あるいは他の金融機関が融資していない企業に対しては実行しないという意見など、金融機関の安全性の確保のためやモニタリングコストの増大を懸念するような、保守的な一面も感じられるところである。
担保・保証に関しては、さまざまで、スコアリング・モデル(企業実績を定量分析し、算出された信用リスクに基づき融資可否を判定)を用いた金融商品を推進するなど、無担保・無保証の融資や融資制度が定着してきたことに対する一定の評価はしつつも、審査はより厳しくなってきたとの意見もある。例えば、個人の土地のみならず、関連会社の土地まで追加担保として要求される等、最終的には担保・保証に依存した形の融資姿勢が見られるなど、金融機関のリスクの管理体制強化がうかがえるところである。
金融機関による経営指導については、経営相談の専坦部署を設置するほか、業務相談時間を拡大して利便性を図り、企業の資金繰り表の作成指導なども行うなどして、今までより一歩踏み込んできた感じが見られるようになってきている。しかしながら、財務上の課題は分析できても、その改善策は提案できないなど、積極的な経営指導は行われていないという意見や、中小企業診断士などの資格を保有して具体的な指導が出来る職員が少なく、また担当者の能力が不足しているなど、今後の経営指導力の底上げを期待する声が多く出ている。
創業・再生支援については、意見が分かれている。例えば、「創業支援については、リスクを取らない消極的な姿勢であるほか、再生支援については、企業の業績が悪化した際に担保保全や債権回収を優先する傾向は変わらないなど、積極的な創業・再生支援は行われていない」という意見は、最も金融機関の保守的な部分の現況を表していると思われる。また一方では「創業者向けのセミナーを開催するほか、業況不芳な企業については、中小企業再生支援協議会を活用するなど、創業・再生支援に積極的に取り組んでいる」といった意見も出ている。
筆者も中小企業再生支援協議会の依頼を受けて資産査定など財務デューデリジェンスを行う役割をしているが、再生支援協議会の指導のもと、財務状況や再建計画を見極めたあと、金融機関の協調のもとに貸出しの条件緩和などが実施されている。
融資の際の審査期間に関連する事項では、スコアリング・モデルを活用した融資によって審査期間は短くなっているほか、信用保証協会の保証付融資に当たっては、事前に保証協会と連絡を取り、審査の迅速化を図っているなど、融資の際の審査期間については特に問題となっていないという意見が見られる。これは、金融機関の自己査定の態勢が整備されたことによって、全般的に審査期間は短縮された結果であると考えられる。
金利については、上昇傾向にあるものの、企業経営を圧迫するほどの上がり方ではなく、不満がでるような水準ではないようだ。また、信用リスクに応じた金利水準の適用が定着し始め、金利水準が適切に設定されていると思われる。しかしながら、プロパー融資に対しては、金利が高いという不満があるほか、中小零細企業の経営には厳しい金利水準と感じられている。借り手の企業は、客観的に自社を分析し、安全性などの向上に努め、行動していかなければならないということがいえるだろう。
借り手側に関する問題としては、今後返済財源の確保が難しい中で、借入れの抑制姿勢が強くなっていることが挙げられる。また、信憑性のない決算書、具体性のない事業計画、自己資金ゼロなど、事業者側の安易な姿勢も指摘されているのも事実である。
意外と貸渋り・貸剥がしといった事例は聞かれないものの、金融機関の企業選別はさらに強まっており、融資姿勢の二極化傾向がみられるようである。また、実際に優良先に対しては訪問が増加し、必要外の資金提供を打診するケースもあるようです。一方、経営指導などが必要な先に対しては、疎遠になってきており、状況把握などが薄らいでいるようだ。
この状況を踏まえた上で、我々会計事務所がその位置づけを確認し、中期経営計画の策定のサポートや経営助言活動を日常業務として行うことが、企業存続・発展の足がかりとなるのではないだろうか?
また、中小・零細企業の再生支援に関しても、会計事務所は町医者的な立場にいるのだから、常に財務的な健康状態を監視しつつ、ときには外科的手術のような思い切った助言活動を行う必要があると思われる。
これらの現状を踏まえ、会計事務所も企業の変化するニーズに答えていかなければならないだろう。
「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)改訂版」の中小企業への浸透状況については、「金融機関や商工団体等の関係機関から間接的に情報を受けていると思われることから、中小企業者へある程度浸透している」と述べられているが、金融機関の審査・融資部などは別として、支店などの融資担当者レベルでは、その具体的内容を十分に理解していないように見受けられる。よって、中小企業者への浸透も十分ではないと感じられる。
平成19年10月1日申込受付分より、全国の信用保証協会と各金融機関との間で、「責任共有制度」が導入されることになった。この制度は、信用保証協会の保証付き融資について、信用保証協会と金融機関が適切な責任共有を図り、両者が連携して中小企業の事業意欲等を継続的に把握し、融資実行及びその後における経営支援や再生支援といった中小企業に対する適切な支援を行うこと等を目的としている。
これまでは、信用保証協会の保証付融資は、原則として金融機関からの借入金額に対して100%の保証を行っていたが、今後は、政策上の保証制度を除いては、原則80%の部分保証となる。
「責任共有制度」には、「部分保証方式」と「負担金方式」の二つの方式があり、金融機関の取扱いにより異なってくる。
「部分保証方式」は、借入金額の80%を保証協会が保証することになる。残りの20%部分については、金融機関が自己責任において融資することになるわけである。
「負担金方式」は、借入金額の100%を保証協会が保証し、100%の代位弁済を行うが、金融機関の保証利用実績などに応じて事後的に負担金を支払うことになり、結果として部分保証と同等の負担となる。
実際の運用としては、都銀などの主要行を除いては、ほとんどが「負担金方式」となるようだ。
ただし円滑な制度導入の観点から、当分の間、以下に掲げる保証については、100%保証を継続し、責任共有制度の対象外とすることになった。
責任共有制度の開始に併せて、小規模企業者(従業員数20人以下、ただし商業(卸売業および小売業)またはサービス業の方は5名以下)を対象とした「小口零細企業保証制度」が創設されました。融資限度額は1,250万円ですが、既存の保証協会の保証付融資残高との合計で1,250万円の範囲内となる新規の保証となっています。
19年7月12日に、「地域密着型金融(リレーションシップバンキング)(平成15年度~18年度 第2次アクションプログラム終了時まで)の進捗状況について」が公表された。これは、15年3月に公表された「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム(第1次アクションプログラム)」、及び17年3月末に公表された「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム(第2次アクションプログラム)」において示された「中小企業金融モニタリング」の更なる活用を図る一環として、その公表が盛り込まれたことによるものである。
地域金融機関の取組み実績について
地域金融機関が客観的に判断した内容としては、全体として、自らの地域密着型金融の機能強化に向けた取組みは着実に進捗しているとの積極的な意見は多く出ているが、事業再生のスピードアップや目利き能力の向上、法令順守態勢の強化、利用者への情報提供を課題としている。
また、企業などの利用者側からの意見としては、地域金融機関の機能強化に向けた取組み全体に対する積極的な評価は半数以上を超えて増加する一方、消極的な意見は減少傾向があることからも、確実に浸透していることがうかがえるところである。
・経営相談等、特にビジネスマッチングへの取組みが積極的に行われている
・取組み姿勢は窺えるが、実感として変化が見られない