ペイオフについて

1.ペイオフの概要

(1)ペイオフとは

 金融機関の破綻に伴う取付け騒ぎや連鎖倒産などを防ぐために、金融機関が預金保険機構に積み立てた保険料等で、破綻した金融機関の預金者等に保険金として元本1,000万円とその利息額を保険金として直接支払うことを「ペイオフ」と言う。但し、預金保険制度発足以来、ペイオフが発動されたことが無い。

 現在は公的資金により金融機関が破綻した場合でも全ての預金及び利息が保護されているが、この「預金等全額保護の特例措置」が平成14年3月末に終了することを「ペイオフ解禁」と言っている。

 ペイオフ解禁後に金融機関破綻した場合は

  1. 工資金援助方式(破綻金融機関の営業を救済金融機関に引き継ぐ場合)
  2. 保険金支払い方式(ペイオフ)(破綻金融機関の営業の引き継ぎが困難な場合)

があるが、「保険金支払い方式(ペイオフ)」は健全な貸出先への影響等の混乱が大きいことから、企業や個人の決済を止めないために「資金援助方式」により破綻金融機関の営業を救済金融機関に引き継ぐ(P&A=資産と負債の承継方式)ことが優先される見通しであるが、営業の引き継ぎが困難でペイオフ発動もありうる。

 尚、「資金援助方式」でも元本1,000万円とその利息額が最低保証であるのは同じ(預金全額が承継する金融機関に受け継がれる訳では無い)。

(2)なぜペイオフが解禁されるのか(ペイオフ解禁に賛成の意見)

  1. 政府はこれまでペイオフ解禁までに金融システム不安を解消できるとして公的資本注入などの特例措置を講じてきた経緯にある。
  2. ペイオフの再延期により預金者や銀行経営者のモラルハザードを招き、金融ビッグバンの理念に逆行する。安易に延期することは結果として税金の投入増加につながる。また、解禁は国際的な公約であり、再延期することで外国から日本の金融システムが不安定と見られる。
  3. 預金者が金融機関を選別するのは当然であり、体力の弱い金融機関に合わせた行政指導をする時代では無い。

(3)なぜペイオフ再延期が言われているのか(ペイオフ解禁に反対の意見)

  1. 景気回復の見込みはおろか、年々金融機関の不良資産も拡大している状況下、基盤の脆弱な金融機関は残っており金融システム不安は解消されていない。このままペイオフを解禁し、体力の弱い金融機関が破綻することになれば、その主要顧客である中小零細企業の資金調達に悪影響が出て、更なる景気悪化につながる。
  2. 今回決済性預金(普通・当座・別段預金のみ)は、平成15年3月末まで全額保護が1年間延長されたように、企業の決済性預金の問題が解決されていない。企業の大口決済性資金がより安全な預け入れ金融機関に一斉にシフトすることは、対象とされた金融機関の破綻を加速する。同時に企業の経営に悪影響を及ぼす。

2.預金保険制度とは

  1. 預金保険法に基づいて、国内の金融機関は強制加入となっており、預金をするとその預金には自動的に保険がかかる。預金者ごとの一定の金額の範囲内でその払い戻しに関して預金保険機構・金融機関・預金者との間に保険関係が成立し、預金者は特に手続きをとる必要はない。但し、保険事故(金融機関の破綻)が起きた後、公告の内容に従って保険金の請求を行う時には手続きが必要。

  2. 金融機関破綻時の受取額
     預金保険の対象となる預金等については名寄せした上で1金融機関ごとに預金者1人当たり、元本1,000万円とその利息額が最低保証される。
     元本1,000万円とその利息額を超える部分は破綻金融機関の財産の状況によって支払われる(破綻金融機関の債務超過額がポイントであり、それに応じてカットされる)
     尚、同一の金融機関で複数の支店に預金口座がある場合は、預金等は合算されるので注意が必要(一方、同じ持株会社の傘下にある金融機関でも、別な金融機関であれば異なる金融機関として扱われる)。

 預金者の概念(金融機関の名寄せ状況に注意)

  • 預金者等が個人か法人かは問わない
  • 預金者の年齢は問わない
  • 個人であれば居住者・非居住者共に対象
  • 法人の名寄せも実質的に判断される
  • 法人格を持たない団体の預金も対象(マンション管理組合、町内会等)
    (保険金支払い時には、団体の実態を証明する書類等の提出が必要となる)
  • 家族はそれぞれ別人格であり、その預金者ごとに対象となる。

3.預金保険の対象金融機関について(表1ご参照)

  1. 預金保険制度に加入が義務付けられている金融機関は、日本国内に本店のある銀行、信金中央金庫、信用金庫、全国信用協同組合連合会、信用協同組合、労働金庫連合会、労働金庫(但し、上記の金融機関の海外支店の預金等は保険の対象外)。
     尚、同一の金融機関で複数の支店に預金口座がある場合は、預金等は合算されるので注意が必要。一方、同じ持株会社の傘下にある金融機関でも、別な金融機関であれば異なる金融機関として扱われるが、合併した場合は合算されるので要注意。

  2. 非対象金融機関(表1)について補足説明すると、

  • 外国銀行の日本支店は管轄権の問題もあり対象外(但し、外資系であっても日本に本店のある在日現地法人は預金制度に加入すれば保険の対象となる)。
  • 商工組合中央金庫は政府が約80%を出資している金融機関。預金・金融債は現在も保険対象外。
  • 郵便局については郵便貯金法で国が元本及び利子の支払いを保護していることによる。
  • 農林中央金庫、農協、漁協、水産加工業共同組合は預金保険制度とほぼ同様の「農水産業協同組合貯金保険制度」に加入。
  • 保険会社と証券会社はそれぞれ「保険契約者保護機構」と「投資者保護基金」という、預金保険制度とは別の保護制度に加入。

4.預金保険の対象金融商品について(表2ご参照)

対象となる金融商品選定の背景は、金融審議会が次の条件を基本的考え方としたことによる。

  • 基本的な貯蓄手段として国民の間に定着していること
  • 元本保証がなされていること
  • 債権者が特定され、転々流通しないこと

5.金融機関破綻時の預金の取り扱い

 金融機関破綻時の預金支払いについては預金者の名寄せ等の問題が有り、日数が掛かる見込み。資金援助方式による「金-月処理」(金曜日破綻、翌月曜日窓口での預金引き出し)が理想とされているが、実際に可能かは不明。

(1)ペイオフとは

 最低保障の部分については、引き続き譲受金融機関と取引が継続される。譲受金融機関への譲渡に時間が掛かる場合でも名寄せが済めば、破綻金融機関から支払いを受けることが出来る。預金保険機構が受け皿銀行に資金援助するのは1預金者当たり元本1,000万円とその利息の払い戻し必要額のみであり、預金者が引出可能であるのも同じ。
 預金の受入・払戻、貸付、決済サービス等は継続される。

(2)保険金支払い方式(ペイオフ)(破綻金融機関の営業の引き継ぎが困難な場合)

  1. 保険金支払いまでに時間が掛かる場合の「仮払金支払制度」
     預金保険機構は預金保険事故が発生した場合には預金者等の請求に基づき仮払金(普通預金1口座当たり60万円、合算で1,000万円は超えられない)を支払うことができる。
  2. 保険金等の支払いを決定した時には預金保険機構は保険金の支払期間・支払い場所・支払方法等を官報・日刊紙等に公告すると共に、自己金融機関及び委託した金融機関の店頭に掲示して周知を図る。
     預金者等は公告で定められた方法に基づいて保険金支払の請求を行う。
    保険金額は1預金者1金融機関当たり元本1,000万円とその利息額の範囲で受け取れる。但し、借入金の担保預金は借入金額と同額部分の支払いが留保される。
  3. 元本1,000万円とその利息額を超える預金は保険金としては受け取れない。破綻した金融機関の清算による配当として支払われるが、時間が掛かることから預金保険機構が「概算払い率」を定めて所定の手続きにより預金者から買い取ることで支払いを行う。
     なお後日、回収額が費用を上回る場合には預金者に「清算払い」として支払う。
    預金保険機構の買取対象は、「預金保険の対象預金と外貨預金」。

(3)保険金等の払い戻しについて

保険金(預金)の払い戻しに際しては、預金者側は選ぶことができません。

  1. 流動性預金が定期性預金に優先する
  2. 定期性預金は、担保権の目的となっていない預金>満期の早いもの>金利の低いもの>預金保険機構が指定するもの、の順で優先する。

(4)破綻金融機関から借入をしている場合

 預金者は保険金支払い請求前に破綻金融機関の管財人に対して預金と借入金の相殺の申し立てを行う必要があるので注意が必要。相殺されると生活資金がなくなる等で相殺をしたくなければ、申し立てをしなければ良い。
 金融機関破綻時に期限が到来していない預金(定期預金等)は法律上相殺が出来ない懸念がある。多くの金融機関では「預金規定」等を改訂して「保険事故発生時における預金者からの相殺」を規定し、預金保険法に定める保険事故が生じた場合にはその満期日が未到来でも借入金との相殺が可能であることを明記している。但し、全ての金融機関で預金規定対応がされていないので、疑念があれば預金規定の確認が必要。
 尚、相殺禁止特約等で相殺できない場合もある。

6.預金保険の保護の範囲

(1)平成14年3月末まで

  • 特例として預金が全額保護。平成14年4月1日にペイオフ解禁

(2)平成14年4月1日~平成15年3月末

  • 1預金者1金融機関当たり元本1,000万円とその利息額が最低保証
  • 特定預金と呼ばれる当座預金・普通預金・別段預金は全額保護
  • 特定預金は政省令で規定されており他の決済性資金は対象外
  • 特定預金に対しては、経営悪化した金融機関が不当に高い金利をつけ資金を集めることのできない様に臨時金利調整法により限りなく零に近い水準となる

7.関与先から予想される質問事項

(質問1)どこの金融機関が安全なのか教えてください。

(回答例)
 具体的な金融機関名は回答できない。チェックポイントを挙げると

  • 金融機関の健全性については、格付け機関の格付け(格付け機関のHP、会社四季報等にも掲載されている)の高い金融機関。
  • 経済専門誌、日刊紙、金融機関が発行しているディスクロージャー誌等により、金融機関の実態(自己資本比率等)を参考にして、金融機関を選ぶ。

しかし、一般預金者にとって金融機関の分析は容易ではない上に、最近では保険会社の突然の破綻、MMFの額面割れ等プロにも予測できないケースもある確実な回答は出来ない。
 1預金者1金融機関当たり元本1,000万円とその利息額が最低保障されており、相対的に安全な金融機関を中心に預金を分散するのが最善。なお、平成15年3月末まで全額保護されている当座預金・普通預金・別段預金に移せば、検討時間の余裕はある。
 但し、大口預金者で1,000万円単位で分けると管理不能となる場合は、相対的に安全な複数の金融機関に集中するか、銀行預金以外に分散投資するかが現実的な解決策。
 分散投資(含む不動産)にはそれぞれのリスクが伴う。例えば預金類似商品として元本確保が期待されていたMMFは元本リスクがあったし、国債も満期日以前の売却は額面割れリスクがある。金融機関破綻リスクと対象商品のリスクを比較しなければならない。

(質問2)金融機関から借入がある場合、危ない金融機関と思っても変更できないのでしょうか(預金を引き上げると貸出取引をストップされることを恐れた質問)。

(回答例)
 法人の場合は借入金が預金より多い場合は、相殺ができれば直接の被害は免れる。
 できれば金融機関を刺激せずに、事前に当該金融機関の預金規定等にて相殺可能であることを確認するのがベター。
 但し、相殺により預金・借入金共になくなり、運転資金に支障がでるのは防げない。相殺を実施した場合、借入金が預金を上回る場合、ケースによっては借入金の全額返済が求められることもありうる。
 一方で経営者及び家族の個人預金(1個人当たり1,000万円超)を、実質的に金融機関が取引の一環としていた場合は、他の金融機関にシフトするのは難しいケースがある。

(質問3)ペイオフを免れるために家族名義に預金を分散しても良いのでしょうか。

(回答例)
 1預金者1金融機関当たり元本1,000万円とその利息額が最低保証されており、贈与税の問題はあるものの、家族名義に分散することは可能。しかし、「他人名義預金」は保険対象外とされており、保険金支払いの請求は預金名義人本人が本人確認資料を提出して行うことが前提になっている(本人が請求できない場合の対応方法は未定)。
 尚、保険事故が発生した場合には預金者等(本人の預金として)が公告で定められた支払い期間内に定められた支払方法に基づいて保険金支払いの請求をする。

(質問4)預金と借入金との相殺について教えてください。

(回答例)
 取引している金融機関の預金規程を確認すれば相殺可能かは確認できる(相殺禁止特約等で相殺できない場合もある)。
 但し、債務者預金(法人が借りていれば法人の預金と担保に差し入れている預金)は相殺の対象になりうるが、家族の個人預金等は相殺が困難です。
 また、相殺により預金・借入金共になくなり、生活資金・運転資金に支障がでるのは防げない。借入金が預金を上回る場合の相殺には注意が必要です。
 なお、現時点では、ペイオフ後の事務手続きについて詰まっていない部分もあり、今後実例に則して決まっていくと予想される。