これからの金融機関とのつきあい方(前編)

 昨今話題となっている金融ビックバンの具体的な動きとして、今後各金融機関が、各企業を係数により徹底的に管理・分析し、金融機関存続のために懸念先の企業との取引を見直す事が予想されます。今回はこのような動向をふまえ、前・後の2回に分けて、金融機関が今置かれている立場を理解し、それに対応すべく企業会計をどのように捉えていくかを解説したいと思います。

「損益計算書」から「貸借対照表」重視へ

 企業会計の目的である財務諸表の作成では、1会計期間の経営成績を明らかにする「損益計算書」と1会計期日における財政状態を明らかにする「貸借対照表」がその中心となります。企業を客観的に評価する上では、どちらの財務諸表も重要な情報となりますが、企業評価という観点からは、「損益計算書」より「貸借対照表」に、その重要性がシフトされています。すなわち、「損益計算書」は、期間損益の結果をとらえるため、単発的な会計情報にしか過ぎず、むしろ、長年の期間損益計算の結果を毎期少しずつ受け、それを自己資本として蓄積した内容を表現する「貸借対照表」が企業評価の上で重要な会計情報となってきました。

 ここで「貸借対照表」の構造を考えてみましょう。「貸借対照表」の貸方(右側)は、資本の調達源泉をあらわし、具体的には、「資本」、「負債」がこれにあたります。一方、借方(左側)は、その資本の運用形態をあらわし、「資産」がこれに相当します。会計学上はこのような表現をしますが、経営学上は、資本を「自己資本」、負債を「他人資本」と呼び、これらをあわせて、「総資本」と呼んでいます。また、資産の合計額を「総資産」と呼んでいます。「総資産」=「総資本」であることは、これから理解できますね。会計学をよく理解していない人が書いた経営の実務書をみると、これらの資本といった言葉の使い方が間違っているものもかなり出回っていますので注意してください。

 最近、新聞紙上でもよく見かけると思いますが、金融機関を含めた企業の「自己資本比率」に話題が集中しています。「自己資本比率」とは、総資産(本)における自己資本の割合をいいます。会計学上では、「負債」+「資本」の合計額に対する、「資本」の割合をいいます。

 「資産」=「負債」+「資本」という等式が成り立ちますので、言い換えるならば、自己資本比率とは、どれだけ会社の資産を自分のもので賄っているかという経営指標となります。当然ながら、会社の資産は、他人よりも自分のもので賄っていたほうが良い訳ですから、自己資本比率は、高ければ高いほどよいということになります。企業規模や業種にもよりますが、30%を目標に掲げる必要があると思います。

「貸し渋り」のカラクリを見てみよう

 金融ビッグバンのもと、「フリー」・「フェアー」・「グローバル」という視点から、自由で公平な、世界規模で通用する金融システムの構築が要求されています。その具体的措置として大蔵省は金融機関に対して「早期是正措置」を打ち出し、国際取引を行う金融機関に対しては、金融機関の自己資本比率を8%以上に、国内取引のみの取引を行う金融機関でも、自己資本比率を4%以上にしなければならないと定めています。

 実際には、各金融機関が企業の資産内容を自己査定し、それぞれのリスクで貸し出しを行える環境を構築しようとするのが目的です。

 ここで、自己資本比率を高めるためには、どのようにすればよいのか考えてみましょう。

図:自己資本比率

 上記の式から、①分子を大きくするか、②分母を小さくするという2つの手段があることがわかると思います。①の具体的な方法としては、毎期利益を出すことで、剰余金たる資本を増やす方法があります。しかしながら、これは、利益を出すことが前提であり、また、時間がかかるということから、自己資本比率の早期改善には向きません。

 ①の2つめの方法として、増資があります。これも、金融機関の業績がよくないために資本市場からの調達は、難しい状況になっています。そこで、公的資金が導入されているというのが現状です。いずれにしても、①の分子を大きくする方法というのは、問題が多いのです。

 次に②分母を小さくする方法、すなわち総資産(本)を圧縮する方法を考えて見ましょう。金融機関は、企業に貸付を行うと金融機関の資産が増えることになり(銀行の貸借対照表では、個人・企業に融資している貸出金が資産となります。一方、個人・企業からの預金は負債となります)、貸したくても貸せない状況にあります。これが、金融機関の「貸し渋り」です。また、これと同様に貸出金を回収することで、総資産が圧縮されますので、「貸し出し回収」も行われています。

 例外処置として、保証協会などの保証がつくと、当該貸金について総資産(本)から控除ができるために、積極的に保証協会付きの融資を行っているのが実情です。

 今回前編では、金融機関の企業評価ポイントと、金融機関の現状について解説しましたが、次回後編では、その現状をふまえて、今後どのうように金融機関に対応すればいいのか、その対応法について解説したいと思います。