昨今話題となっている金融ビッグバンでは、各金融機関が自らの基準で企業に対する「自己査定」を行うことにより、自己責任を明確にするようになりました。これは、「フリー」・「フェアー」・「グローバル」というキーワードが表しているように、規制にとらわれず自由に、公平な立場で国際的に通用する仕組みを構築していかなければならないという社会的な要請から生み出されたものです。
会計の世界でも、こうした流れのもとで「会計ビッグバン」が始まっています。市場経済が世界規模で行われるにしたがって、多国籍企業やグローバル企業などが出現し、さらには各国の投資家が他国の企業に投資するようになりました。しかしながら、各国の会計基準が異なるために、比較検討ができず、さらには会計基準の違いからやむを得ず投資ができないといった事情もありました。そこで国際的に比較可能な会計数値の要請が高まり、情報の開示に対してもグローバルスタンダードが必要になったのです。それに対する制度的な指針が国際会計基準(IAS:International Accounting Standard)です。
IASは、1998年12月に主要な基準が発表され、その数は約40にも及びます。日本では、この動きに合わせるように、大蔵大臣の諮問機関である企業会計審議会が意見書や会計基準を発表しています。1997年6月には、連結財務諸表の見直しに関する意見書が、1998年には、連結キャッシュフロー計算書、退職給付、税効果会計に関する意見書が相次ぎ発表されました。
そもそも日本の会計は、商法、証券取引法および税法が複雑に絡んで、三位一体となって構築されています。商法は債権者保護・配当可能利益の算定、証券取引法は投資家保護、税法は課税の公平をそれぞれの目的としています。こうした状況の下で開示される財務諸表は、税額の算定が優先されるため、本来の企業実態を表すものではなく、投資家にとっては必ずしも有用な会計情報とはいえませんでした。
さらには、取得原価主義を中心とした制度上の問題や、単独決算が企業グループ全体の力を表現しないといった問題も指摘されることになりました。
国際会計基準は、時価会計・連結決算を前提とし、さらにキャッシュフローを重視するため、財務諸表が企業の実態を正しく反映することになります。これにより、含み資産や不良債権が開示されるため、経営の不透明性がなくなり、比較可能な財務諸表がディスクローズされることで、国際的な資金の調達・運用も可能になります。
国際会計基準による日本の新会計基準は、株式を上場している企業を対象としていますが、未上場の中小企業にとっても無関係というわけではありません。たとえば、金融機関に決算書を提出する場合、企業の実態を明確にする時価主義導入したものや、あるいはキャッシュフロー計算書を添付することによって、当該企業の会計情報が、信憑性を生み、それ自体を評価されることは、間違いありません。
また、実質的に支配されている親会社がいる場合には、連結子会社として、親会社の会計処理に統一されたり、あるいは税効果会計の導入の可能性もあります。
会計上の利益がいくらあっても、手元に現金がなければ経営は成り立ちません。また、「利益あって金足らず」といった言葉もよく聞かれるものです。バブル期においては、現金があとからついてきたり、あるいは損失の場合でも、土地や建物の含み益を担保に金融機関からの融資を受けることができました。しかしながら、バブルの崩壊による金融システムの再構築による影響で、貸し渋りが広まり、「キャッシュフロー」に対する認識が高まってきました。
こうした中で、日本でも平成11年4月1日以降に開始する事業年度から、連結ベースでのキャッシュフロー計算書の作成が義務付けられました。
キャッシュフロー計算書とは、1会計期間のキャッシュすなわち現金及び同等物の流れを開示する財務諸表のことをいいます。従来は、資金収支表によって資金情報を開示していましたが、資金の範囲が広く、市場性のある有価証券も含まれているため、実際の資金管理情報とは乖離しているという指摘がありました。
このキャッシュフロー計算書では、「営業活動によるキャッシュフロー」、「投資活動によるキャッシュフロー」及び「財務活動によるキャッシュフロー」の3つの区分で、キャッシュの流れを表示しています。
「営業活動によるキャッシュフロー」は、通常の販売・サービス活動によって生み出された資金量を表します。「投資活動によるキャッシュフロー」は、有形固定資産の増減、有価証券・投資有価証券などの増減などに対するものが含まれます。また、「財務活動によるキャッシュフロー」は、資金の調達および返済によるものが記載されます。
以上の3区分の合計額に期首の残高を加えたものが期末のキャッシュ残高ということになります。
キャッシュフロー計算書の算出方法には、「直接法」と「間接法」があります。実務的には、ほとんどの企業が「間接法」を採用しているのが現状です。「間接法」は、税金等調整前当期純利益から出発して、損益計算書で計上された非資金損益項目、投資活動によるキャッシュフロー及び財務活動によるキャッシュフローの区分に含まれる損益項目を修正し、営業活動に係る資産及び負債の増減を加減して、営業活動によるキャッシュの正味の増減を導き出す形になっています。
キャッシュフロー中心の経営になっていくと、フリーキャッシュフローの確保と増加が目標となってきます。フリーキャッシュフローとは、営業活動によるキャッシュフローから企業を継続するためのコストを引いたキャッシュフローをいいます。フリーキャッシュフローは、新規の設備投資、株主に対する配当、また債権者に対する支払いに自由に当てられるため、これを生み出す能力が今後の企業経営の方向性を定めていくことは間違いありません。今後、連結キャッシュフロー計算書の作成義務のない中小企業においても、金融機関などからの要請により、企業実体を表すキャッシュフロー計算書の作成を余儀なくされる日も近いと思われます。
税効果会計とは、会計上の法人税などを他の費用と同様に考え、支払いの有無に関係なく発生主義で認識する方法をいいます。企業会計上、損益計算書に記載される法人税などは、税引前当期利益に税法上の加・減算をおこなうことで課税所得を算出し、それに対する税率を当てはめることで導き出されます。したがって、税引前当期利益と課税所得が通常一致しないため、それぞれから導き出される税額も当然異なることになります。すなわち、その分の差異を調整し、税引前当期利益に対応した税額を計上し、その後の利益を計算する手続きが税効果会計ということになります。
税効果会計は、平成11年4月1日以降に開始する事業年度から、公開会社での適用が義務付けられました。また、非公開会社においても、商法の適用を受けて、税効果会計の採用が可能となりました。すでに、金融機関などでは、前倒しで税効果会計を導入しています。
企業会計上の税引前利益と法人税上の課税所得が一致しない原因となる項目は、「一時差異」と「永久差異」に区分することができます。「永久差異」は、将来の課税所得の計算で加算・減算の効果がないため、「一時差異」のみが税効果会計の対象になります。